~株式会社allbeans 近藤 拓茉さん~
正解のない中山間地域で、起業という選択をした理由
高知県の中山間地域に、新しい「循環の形」を創造する。持続可能な未来をデザインする株式会社allbeans代表取締役の近藤拓茉さんに、起業までの歩みや宿泊事業を始めたきっかけ、これからの展望を伺いました。


地域の変化を前に、「このままではいけない」と思った瞬間
起業のきっかけについてお聞かせください。
私の生まれ育った地域は、人口減少が著しいエリアです。その影響で、地域のコミュニティを維持することが年々難しくなってきていました。
商店街の店舗は次々と閉鎖され、日常の買い物にも困るようになっていきました。住宅地には空き家が増え、地域の風景が少しずつ変わっていくのを感じていました。高齢化が進み、子どもたちも地元を離れていく中で、地域の高齢の方から「所有している土地を手放したい」という言葉を直接聞くこともありました。そんな中で「このままではいけない」「自分に何かできることはないか」と強く思ったことが、事業を始めるきっかけになりました。

起業に向けて、どのような考え方で事業の方向性を探っていったのでしょうか?
起業を考え始めた当初は、まずビジネスを成り立たせるための課題を探していました。しかし考えを進める中で、次第に「お客様にどんな新しい価値を届けられるのか」という問いが、事業の軸になっていきました。ひとつの視点にとらわれず、多角的に検討すること。そのプロセスを大切にしながら、事業の方向性を模索していきました。
そうする中で、”中山間地域に眠る豊かな資源や、そこに暮らす人々の日々の営みを大切にしたい”という想いから、持続可能な地域社会の実現を見据えた「循環型」の事業モデルに取り組むようになりました。こうして生まれたのが、オフグリッド(電気やインフラに接続していない状態)の自然共生型の宿泊施設「allbeans」です。
中山間地域に飛び込み、課題の「解像度」を上げる
起業の準備はどのように始められましたか?
起業準備は、まず中山間地域の課題を正しく理解することから始めました。そのために、現場で感じることと、データで捉えることの両方を大切にしました。実際に中山間地域で暮らし、田んぼが耕作放棄地になっていく様子や、地元の方々の生の声に触れることで、地域が抱える課題を肌で感じることができました。県庁や製材所を訪ね、事業者の方々と対話を重ねたことも、課題を具体的に捉える上で大きなヒントになりましたね。
あわせて、行政が公開している人口動態や高知県産業振興計画などのデータも参考にしました。自分なりに調査を進める中で、高知県は豊富な木材資源を持ちながら、伐採や加工といった処理能力が十分に追いついていないという、林業の構造的な課題が見えてきました。
また、起業に向けて、事業計画の策定段階から、こうちスタートアップパーク(以下、KSP)の起業相談を利用し、先輩起業家等の方々への相談を重ねる中で、自分ひとりでは気づけなかった視点を数多く得ることができました。
特に印象に残っているのは、「顧客が本当に求めている価値に対して、今考えている事業の形は適切なのか」という問いを投げかけられたことです。この問いをきっかけに、改めてビジネスモデル全体を見直し、事業の構造そのものを考え直すようになりました。
また、CFO(最高財務責任者)の視点が重要であることにも気づかされました。なぜその視点が必要なのかを考える中で、損益計算書だけでなく、バランスシートを意識したファイナンス設計やリスク管理が欠かせないビジネスモデルであることを理解しました。
KSPでの支援を通じて、「自分は何を分かっていなかったのか」を自覚できたことは、大きな学びでした。多様な視点から事業を見直すことで、自社の強みや課題を整理し、より現実的で納得感のある事業計画を描けるようになったと感じています。

戦略としての「三次産業からの挑戦」
ビジネスとして宿泊事業を選択した理由を教えてください
高知県の森林資源を活かしたいという思いから、戦略的に宿泊施設を運営することにしました。高知県は森林率84%と、日本一の森林資源を持つ地域です。この資源をどう活用できるかを考える中で、循環型林業の事例が、ひとつのヒントになりました。
福島で成功している循環型林業のモデルを現地で視察した際、「ローカルで事業を始めるなら、まず三次産業から参入し、そこから一次産業につなげていくのがよい」というアドバイスを受けました。この言葉は、事業構想を考えるうえで、大きな学びになりました。
そこで、三次産業である宿泊業を起業されたのですね
自分たちが考案したキャビン型の宿泊施設の建設には木材が必要なことから、木材の調達や活用までを一貫して手がける構想へと発展していきました。自ら山林を購入し、自伐型林業に取り組むことで、木材の調達から薪の生産までを事業として行う循環型ビジネスを描きました。
三次産業を起点に人の流れを生み、一次産業である林業ともつなげていく構造を地域の中で成立させたいと考えました。

想像をデザインに変え、未来の風景を創造する
今後の展望をお聞かせください。
今後は、外部のインフラに依存せずに持続可能な中山間地域モデルを目指していきたいと考えています。これまで水道や電気といったインフラは、行政の技術に依存してきましたが、それに代わる新しい仕組みづくりに挑戦していきたいと思っています。
こうした構想を形にするため、現在運営している自然共生型の宿泊事業「allbeans」を起点とした取り組みを進めています。この事業を通じ、自然と共生しながら、「中山間地域で、より生き生きと暮らしたい」と感じる人を増やしていくため、まずはこの地域でビジネスモデルを形にし、少しずつ全国へと広げていければと考えています。
短期的な視点では、経済合理性だけで測れない厳しさがあるのも事実です。それでも、この挑戦には大きなやりがいがあり、地域の未来の風景を描き直す意義があると信じています。想像をデザインに変えながら、一歩ずつ前に進んでいきたいと考えています。
最後に、起業を考えているみなさんにメッセージをお願いします。
中山間地域での起業は、決して楽な道ではありません。しかしその先には、地域の未来を創造するという大きな意義があります。想像を現実のデザインに変える、その挑戦そのものが、何物にも代えがたいやりがいになります。
少しでも心が動いたなら、ぜひ一歩を踏み出してみてほしいと思います。
allbeans
住所:高知県香美市香北町五百蔵古川1881−1
HP:https://allbeans.jp/
文責/楠瀬まどか